「収入が増えれば税金が上がり、長期休みを取ったら自分の席がある保証がない」「ずっと同じ仕事を繰り返している」
2025年9月、ABEMA TIMESが紹介した“会社員回帰を考えるフリーランス”の独白が刺さったのは、これが単なる愚痴ではなく、制度と市場の構造が生む“詰み方”を正確に言語化していたからだ。
フリーランスが苦しくなる理由は「自己管理が下手」といった精神論ではない。
①税・社会保険の設計、②契約慣行の脆弱さ、③スキル投資の不利、④信用(与信)のコスト。この4点が噛み合うと、真面目な人ほど詰む。

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1. “稼いだのに増えない”の正体:税率より怖いのは「保障を自分で買う」構造

「収入が増えれば税金が上がる」は制度上その通りだ。所得税は原則として5%〜45%の超過累進で、課税所得が上がるほど税率が段階的に上がる。
ただし、当事者が感じる残酷さは税率そのものより、ここにある。
会社員は“保障が同梱”、フリーランスは“保障が別売り”
会社員は、健康保険・厚生年金などの社会保険が労使折半で設計され、本人負担が半分で済む。厚生年金の保険料率は18.3%(固定)で、本人負担はその半分(9.15%)という構造だ。
健康保険(協会けんぽ等)も料率は都道府県ごとに異なり、毎年公表される。
一方、フリーランスは(制度の選択肢はあるにせよ)原理的に保障を自分で揃える側に回る。
その瞬間、同じ年収に見えても「守り」の費用が増え、体感としてはこうなる。

- 収入が伸びるほど、税+保険+将来準備の“必要額”が連動して増える
- しかし、支払いのタイミングが分散されず、後から来る(確定申告・住民税・保険料など)
- 「増えた気がした」のに、翌年に現実が殴ってくる
だから「稼いでも楽にならない」は、嘘ではなくキャッシュフロー上の仕様だ。

2. “休めない”の正体:能力ではなく「契約が薄い」から席が消える

「長期休みを取ったら自分の席がある保証がない」
これは不安の話ではなく、取引の前提が薄いことの帰結だ。
内閣官房・公取委・厚労省・中小企業庁がまとめた令和4年度フリーランス実態調査では、主要な取引について「書面交付がない」ケースが75.5%と報告されている(※調査対象の定義あり)。
契約が薄いと何が起きるか。休む・病む・家庭事情が出る——その瞬間に、
- 代替が効く業務は「じゃあ別の人で」で終わる
- 更新条件や成果物の範囲が曖昧だと、揉めた側が負ける
- 「席」があるかどうかは、制度ではなく相手の都合で決まる

そして、この“薄さ”を是正するために、2024年11月1日施行の「フリーランス・事業者間取引適正化等法」では、取引条件の明示などが義務付けられた。つまり国も「これまでの慣行は危ない」と認識している。
さらに、法施行前の実態調査(厚労省資料)には、報酬減額等に関する当事者の声も掲載されている。
この環境で「休めない」は、根性ではなく設計だ。
3. “ずっと同じ仕事”の正体:スキルの切り売りは、投資時間を奪う

「ずっと同じ仕事を繰り返している」
これも個人の怠慢ではなく、フリーランスの報酬構造が生む必然だ。
企業は社員に教育投資をする。将来の回収が見込めるからだ。
しかし外注に求めるのは基本的に「今できること」で、学習や挑戦のコストは発注側が負わない。
するとフリーランスはこうなる。
- 学習=非稼働=売上ゼロ
- スキル更新のために時間を取ると、その月の生活が削れる
- 結果として、古い武器で戦い続け、単価が伸びない案件に固定される
このループは、真面目な人ほど深くはまる。
稼働率を上げて埋めるほど、学習余力が消え、未来の単価が下がるからだ。
4. もう一つの地獄:「信用」は現金より高くつく

ここが記事に入ると“解剖感”が増す。
フリーランスは、住宅・賃貸・カード・ローンなどで、同じ年収でも信用の説明コストが増えやすい。提出書類、審査期間、条件、時に金利・保証など。
これは家計の固定費に直撃する。しかも「忙しいほど」手続きができず、損を取り戻せない。
自由の代償は、時間と信用を現金で買い戻すことになる。
5. では本当に「会社員回帰」は起きているのか:先行指標は“ある”

国の統計で「回帰が増加」と断言できるものは現時点で限定的だが、感度の高いIT/Web領域では先行指標が出ている。
- FindyのIT/Webフリーランス調査では、正社員への転向を検討したことがある 37.0%、転向経験あり 10.8%。
- Workship(GIG)の調査では、中途採用企業の54.7%がフリーランス・業務委託経験者を正社員採用した実績ありとされる。
ここで重要なのは、「回帰=敗走」ではないことだ。
これは投資で言えば、リスク過多ポジションを“利確して”ボラティリティの低い資産に移す行為に近い。
6. 回帰のトリガーはだいたい同じ:人生イベント+市況+心身

人が戻る瞬間は、驚くほどパターン化される。
- 結婚・出産・介護で、稼働時間が減る
- 病気やメンタルで、稼働が止まる
- 住宅購入で、信用が必要になる
- 市況が冷え、単価が落ちる/案件が途切れる
- 同一作業の反復で、成長が止まる
ABEMAの当事者談が刺さるのは、これが“誰にでも起こり得る”からだ。
結論:2026年、「会社員」は最強の“保障付きパッケージ”である

会社員は完璧ではない。だが少なくとも、
休む権利(有給や制度)と、保障(保険・年金)と、信用(与信の通りやすさ)と、育成(学習のための時間)を、仕組みとして抱えている。
フリーランスは自由だが、その自由は多くの場合、リスクの外注とセットで売られている。
だから「戻りたい」は弱音ではなく、制度と市場を見た上での合理的な判断になる。
そして、企業側もすでに「委託→正社員」の流れを受け入れ始めている。

根拠データ(主要出典)
- ABEMA TIMES(当事者談) (ABEMA TIMES)
- 国税庁:所得税は5%〜45%の超過累進 (国税庁)
- 令和4年度フリーランス実態調査:書面交付がない75.5% (中小企業庁)
- 厚労省:法施行前調査(当事者の声等) (厚生労働省)
- 日本年金機構:厚生年金保険料率18.3%(固定) (年金機構)
- 協会けんぽ:都道府県単位の保険料率公表 (共済会健康保険)
- Findy調査:正社員転向の検討37.0%、経験10.8% (ファインディ株式会社(Findy Inc))
- Workship/GIG調査:企業の54.7%が委託経験者を正社員採用 (Workship)
- フリーランス新法(2024/11/1施行、取引条件明示等) (東京建設業協会)


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